三井住友フィナンシャルグループと住友商事が共同出資する三井住友ファイナンス&リース(SMFL)は2026年11月4日、生成AIを用いた開発手法「エンタープライズ バイブコーディング」を使った企業向けパーソナライズ型SaaSの提供を開始したと発表した。ITmediaの報道によれば、米Replit社の技術を活用し、顧客ごとのカスタマイズをAI主導で実現するもので、日本の産業界におけるAI活用の新たな潮流を示すものとなっている。
発表会の様子は産経ニュースも伝えており、シリコンバレーを代表するバイブコーディング企業であるReplit社の技術と、SMFLが長年培ってきたシステム開発の実践知を融合させた新サービスとして位置づけられている。
リース会社がAI開発に乗り出した経緯
SMFLは営業資産約9兆円を有するリース会社であり、多様な資産をどこに、いつ、どのように管理するかの把握が経営課題であった。転機は2016年、米国の重工業メーカーGEの日本法人である日本GEのリース事業部門を買収し、内製開発部隊を得たことである。自社で使って磨いたうえで顧客に届ける「カスタマーゼロ」の文化はここから育った。2021年に外販を始めた資産管理クラウドサービス「assetforce」は、すでに200社を超える企業と有償契約を結んでいる。
一方、顧客の多様な要望に応じて個別にカスタマイズする工数が課題となっていた。今回の取り組みはこの課題を解決するために始まったものである。
SMFLの今枝哲郎社長は、Replitの特徴について次のように説明した。
「エンジニアへの指示書などはいらない。『こんな画面にしたい』『こんな業務をもっと使いやすくしたい』と言葉で伝えれば、AIがコードを書き、動くアプリに仕上げてくれる」
バイブコーディングとは何か
自然言語でAIに指示してコードを書かせる「バイブコーディング」は、米OpenAIの共同創業者アンドレイ・カーパシー氏が提唱し、2025年頃から広まった開発スタイルである。手軽さが関心を集める一方、企業の業務システム開発への応用には安全性や品質の担保といった課題が残っていた。
ITmediaの報道によれば、SMFLはassetforceとReplitを接続する開発基盤を構築し、双方の認証と権限をチェックしたうえで、企業がアクセスを許可したデータと操作のみを通す仕組みとした。今枝社長はこれを「セキュリティゲートが付いた橋」と表現した。
コストと安定性をどう確保するのか
大規模開発では、AIに渡す情報(コンテキスト)に同じ設計情報が何度も含まれ、トークン消費量が膨らみやすい。SMFLはコンテキストを作業単位に分割し、各開発者の担当作業に必要な情報のみを渡す方式を採用した。
また、生成AIは同じ指示でも毎回同じ結果を返すとは限らない点も、金融や会計を扱うシステムでは重大な課題となる。今枝社長は「計算結果が正しいこと、その計算根拠を説明できることが欠かせない」と語った。同社は、AIが開発ルールに沿って書いたコードを品質管理エージェントが独立して検証する仕組みを構築。検証には同じ条件なら何度実行しても同じ結果になる「決定論的なテスト」を用い、最終確認は必ず人間のエンジニアが行うことを開発ポリシーとしている。
劇的な効率化の実績
すでに試行では顕著な成果が表れている。ガジェット通信の報道が伝えるように、assetforceの改修では従来6人で約半年と見込まれていた開発を1人・1週間で完了した。別の資産管理サービスの改修でも、200を超える画面を持つ償却計算システムを機能ごとに並行開発し、要件定義後の開発・テスト期間は従来手法の3分の1に圧縮できる見込みである。
属人化という旧来の課題を繰り返さないか
従来のノーコード/ローコード開発では、開発の属人化や保守性が課題として残っていた。これに対し、発表会に登壇したReplitのアムジャド・マサドCEOは「バイブコーディングは属人化を減らすと思う」と指摘する。開発者ごとにコーディングスタイルが異なることが属人化の原因であり、AIがコードを書けば、より標準的な形でシステムが構築されるという。
一方、今枝社長は、カスタマイズが容易になることでシステムが顧客ごとに過度にパーソナライズされる懸念を認めたうえで、assetforceのデフォルト機能を資産管理のスタンダードとして提案しつつ、一部のカスタマイズ需要を取り込む形で運営するとした。コーディング工数が減る分、要件定義の重要性が高まるとして、現場で顧客と対話しながらアプリを作るFDE(Forward Deployed Engineer)の育成も進めている。
日本企業のAI活用の行方
SMFLは、今回のサービスを含むデジタルサービスの売上規模を5年間で10倍に伸ばす目標を掲げる。今枝社長は、伝統的なリース事業とクラウドサービス事業にAIの潮流を組み合わせ、「組み合わせの妙を作っていきたい」と意欲を示した。
なおImpress Watchの報道によれば、Replitは日本に拠点を開設し、SMFLがライセンス提供や研修を担う。日本の伝統ある企業が、時代の技術革新を主体的に取り込みながら産業の競争力を高めていく姿は、我が国の未来を考えるうえで注目に値しよう。
よくある質問
エンタープライズ バイブコーディングとは何ですか?
自然言語でAIに指示してコードを書かせる「バイブコーディング」を、企業の業務システム開発に安全に使えるよう発展させたSMFL独自の開発手法である。
AIが書いたコードの品質はどう担保されますか?
品質管理エージェントが決定論的なテストで独立して検証し、最終確認は必ず人間のエンジニアが行う仕組みになっている。
どの程度の効率化が実証されていますか?
従来6人で約半年かかると見込まれていた開発を1人・1週間で完了した実績があり、別案件では開発・テスト期間を3分の1に圧縮できる見込みである。
